乾の四徳、坤の四徳

『易』は生成・発展の法則を取りまとめた書物である。古代中国の書物に限らず、古い本というのは現代の私たちにとっては体系がわかりづらい、もしくは存在しないように見えるものもあるが、『易』については64個の卦が順序も含めて明確に存在している。

今回はその中でも冒頭に置かれる2つの卦、乾と坤について取り上げてみたい。

乾為天 – 始まりの卦

乾の卦は『易』の中では最初に配置される。細かな説明は省くが、各卦は6本の線(爻)から構成されて、それぞれの爻が「陽」か、「陰」のいずれかになっている。6本の爻は、上側の3爻(上卦)と下側の3爻(下卦)に分けることができるが、乾はすべての爻が「陽」で構成されており、陽気に満ちた卦になっている。

乾の卦は、天上天下(上卦、下卦ともに天)の形になっているが、それは天の行く様が幾度も繰り返し、変わりのないことに通じているともいわれる。

元亨貞利 – 乾の四徳

各卦の説明には、総括的な解説である「卦辞」、1本1本の爻について説明を加える「爻辞」、さらに(伝説上は孔子が加えた解説とされる)理解を扶けるという位置づけの「十翼(伝)」がある。「十翼」にはその名の通り、10個の章が含まれている。

乾の卦辞は、以下のようなものである。

元亨、利貞、

元いに亨る、貞しきに利あり。

元、亨、利、貞の4つは「乾の四徳」とも呼ばれる。元気という言葉があるが、それはこの「元」と通じており、おおらかで偉大な陽気の様を表していると理解している。元気という言葉は何気なく使っていると思うが、とても深い意味を持っている。

「亨」は、天意・神意に叶って、支障なく物事が進む様、「貞」は心が正しく定まって、迷わない様、「利」は穀物を刈り取る象から、鋭く効くといった意味に通じる。乾の卦は「元」の字に集約されているという面もあるが、「貞」の安定して正しいという意味も大切で、迷わずに貞しくあり続けるということが重要なポイントでもある。

 

卦に関する解説である「十翼」に含まれる「象伝」には、

天行健、君子以自彊不息、

天行健なり。君子以って自彊息まず。

とある。天の行く様は健やかで変わることがない。君子はそれに則って、自らをたえず彊(強)めていくという。今日も明日も変わらずに、自らの道を行くものが人物だということだろうと思う。

坤為地 – 天に対する、地

すべての爻が「陽」である乾の卦に対して、続く2番目に置かれる坤の卦は、すべての爻が「陰」で構成される。

乾の形が天上天下(上卦、下卦ともに天)であるのに対して、坤の形は地上地下(上卦、下卦ともに地)となる。乾坤、天地は対であり、これら2つの卦を起点として、万物が生じていく。陽気だけでも、陰気だけでも、物事が動くことはないということだと思う。

牝馬の貞 – 坤の四徳

乾の卦と同じく、坤の卦も四徳を備えている。

元亨、利牝馬之貞、君子有攸往、先迷後得主、利、

元いに亨る、牝馬の貞に利あり。君子、往くところあり。先んずれば迷い、後るれば主を得て、利あり。

坤の四徳は、元・亨・利・牝馬の貞となる。牝馬は、従順で健やかにいくものの象徴だとされる。坤の卦は物事を載せる器であり、先に行こうとすると迷い、後からついていくようにすれば、主を得て、利がある。乾が主君の卦であれば、坤は君臣の卦となる。主だけでは物事は成立せず、従は常に対として必要とされるということだろう。

 

「象伝」には、

地勢坤、君子以厚徳載物、

地勢は坤なり。君子以って徳を厚くし、物を載す。

という。「自彊不息」と「厚徳載物」も対になっているのだろうと思う。自らを彊(つよ)くし、それが息(や)むことがない乾に対して、厚い徳によって、あらゆるものを載せる坤は、その両者によって天地創造となる。ある意味で、乾坤は『易』の64卦を究極的に象徴しており、古代中国において描かれた世界観はこの2つの卦に集約されるという見方もできる。

 

太極の話で少し触れたが、『易』の両儀は太極から生じると考えられており、太極はすべての源であり、その姿は混沌とされる。混沌は少なくとも東洋においては、非常に根源的で重要な世界の実相だと個人的には理解している。混沌は混沌そのものであって、陰陽に分解されるような類のものではないのだけれど、その1つの相というのか、極というのか、そういうものとして乾坤という2つのものが見出されているのかなと思う。

『易』の卦は乾坤の2つに限らず、混沌のある瞬間における、ある視点からの相であると僕は理解していて、それはとても現実に近いと思う。

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