他者とは何か – 自分、他者、境界、自由

知人者智、自知者明、

人を知る者は智なり、自ら知る者は明なり。

(老子  上編  第三十三章)

不勉強なため、普段はあまり広く哲学に触れる機会がないのですが、ご縁があり、大学生の方々が企画している哲学に関する勉強会に参加させていただきました。

テーマは「『私』と『貴方』は『言葉』で分かり合えるのか?」という興味深いものでしたが、そこで感じた「他者」の捉え方について、少し整理ができればと思います。

 

「他者」は本当に「他者」か?

19世紀のドイツの哲学者、ショーペンハウアーには、

われわれ各個人は、他人の裡に自己を写す鏡を持っている。

(ショーペンハウアー  『パレルガとパラリポーメナ』より抜粋)

という言葉があるそうです。ショーペンハウアーの思想はインド哲学や仏教の色が濃いとされますが、仏教には「主客未分」という言葉があり、個人的には非常に東洋的な概念だと思っています。

宗教的な側面もあり、解釈は様々と思いますが、「他者」というテーマに対して、そもそも自分が認識している他者を、自分と切り離しては定義できないという点は、ある意味で「主客未分」であると感じます。

 

「自分」は「他者」との関係性の中で規定されると考えたときに、その規定している「他者」もまた、「自分」である。そう考えると、真の自己は自分の中からしか生まれてきません。

人間には承認欲求があるため、他人から認められたいという気持ちがある一方で、それ自身、自らに由らなければ定義することができない。

 

以前の記事で、「東洋的な自由」をテーマにしたことがありますが、真の自由は「自ら(身づから、己づから)」あるものであり、絶対的な個である。他者との関係性の中で規定されながら、同時に「天上天下唯我独尊」である。

また、『孟子』にある「志は気の帥なり」という言葉、そして「気の帥たる志を養う」ことの意義もまた、ここから生じると捉えることもできます。

 

「他者」の拡張 – 時間、自然、世界

私たちを規定するものは、なにも家族や友人といった身近な他者だけではない。見知らぬ人を見て差異を見出すことはもちろんありますし、「過去の自分」や「未来の理想」、「環境」や「自然」など、世界のあらゆるものは自分を規定する他者です。

 

東洋思想の特徴の1つにアニミズム(animism、あらゆるものに霊が宿るという思想)があり、いわゆる神道における「八百万の神」という概念もその1つです。

そして、この「八百万の神」という感性こそ、日本人が持つ非常に大きな可能性になりうると私は思っています。これについては、Zibaでビジネスデザイナーを務めた濱口さんの記事もとても興味深いと感じます。

100個から1つを選ぶことを多くの日本人は良しとしない。八百万の神という信仰にみられるように、どれにも理があると考えるから、100個のアイデアからどれかを選べと言われても、「そうは言っても、これもいいし、あっちも捨てがたい」と躊躇する。こういう外国人とはまったく別のメンタリティーがあるから、決められない。全部持っておきたい、しかも包括的に所有しておきたいと欲するのです。

これは、外国人からすると、「日本人は物事を決めれない国民だ」となりますが、「イノベーションを起こす」という観点からみると、この日本人の気質は強い。日本人はレベル1のブレストではもたつきますが、そのあと、レベル2、レベル3と進んでいくときに、その力を遺憾なく発揮します。

(「日本人の性質を活かした究極のブレストとは?」より抜粋)

 

少し話が脱線してしまいましたが、冒頭でご紹介した『老子』の一節では、他者を知るということは理を捉える「智」であり、自らを知るということは情理の全体をはっきりと捉える「明」であるとされます。

あらゆる「他者」を自らに由ってあるものと捉えることで「自分」を知ることができ、「智」が「明」となる。自らを知ることで、はじめて「明らか」になる。そこには境界はなく、真の自由があるのだと思います。

 

「私」と「貴方」、「自分」と「他者」というのは非常に面白いテーマです。そこに境界ではなく自由を見出だすことが、世界を捉えるということにつながっていくと個人的には思います。

そして、「貴方」がいるから「私」がいる。「貴方」という存在が、「私」を創っている。そう想うことが、私の生を少しだけまっとうにしてくれるとも感じます。

 

孤独と人生 (白水uブックス)
アルトゥール ショーペンハウアー
白水社
売り上げランキング: 136,205

瑞月
四国の香川県出身。細々としか続けておりませんが、合気道と剣術を少々しております。漢学教室で学習した内容の発信も行っています。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です