梧桐一葉 – 天下尽く秋を知る

梧桐一葉落、天下尽知秋、

梧桐一葉落ち、天下尽く秋を知る

(群芳譜  木譜  梧桐)

『群芳譜』は明代の農学者、王象晋によって編纂された農学書です。その記述は木以外にも花、果実、薬など様々な植物に及びますが、ここでご紹介したのは「アオギリ(梧桐)」に関して記した一節です。

立秋の日には、梧桐の葉が一枚落ちるため、それによって秋になったことが分かるとされます。

 

11月に入った頃、隣に席に座っている後輩社員が突然セーターを着てきたので、風邪でもひいたのかと思い尋ねてみると、「カレンダーを見ると、もう11月5日だったので」と教えてくれて、やや苦笑しました。

日々、忙しいことは悪いことではないですが、都会で生きる/社会的に生きるということは、やはり自然ではないのだろうと感じたりしました。

 

折節の移り変はるこそあはれなり

吉田兼好の『徒然草』には、

折節の移り変はるこそ、物毎にあはれなり。

とあります。易経の乾の卦には「天行健なり」とありますが、尽きることなく行く日々の中にも様々な変化があり、それを感じるのが自然だと感じます。

 

「すべて自然でないものは不完全である」とナポレオンは言ったとされますが、不完全である我々はときに完全である自然を感じ、自然に触れなくては機械的・機能的になりすぎて、神経が衰弱すると感じます。

 

秋風蕭蕭として人を愁殺す

『淮南子』には「一葉落ちて、天下の秋を知る」といった一節もありますが、秋を悲哀・衰退の始まりの季節と観ずるのは、東洋文学の伝統的な認識とされます。

 

今年、私が秋を強く感じたのは我が家の鉢植えがきっかけでした。私の妻は台所の出窓でハーブやら大葉やらを育てているのですが、夏の間はこれでもかと伸びていたそれらが、秋を迎えるとすっかり元気がなくなりました。

古代中国では、陰気が籠る冬に地を掘り起こすことは不吉とされ、土木工事は冬には興されなかったそうですが、なるほどと実感を持って得心がいきました。

 

易経を読むまでもなく、陰気はまた陽気に転じますが、それには時を待つ必要がある。無理に興すものではなく、自然とそうなるものであるというのが、東洋の思想です。そういう意味で、自然を支配下に置こうとする、分析的な西洋学問とはやや趣が異なります。

 

清の沈徳潜(しんとくせん)が編纂した『古詩源』には漢代の古歌として、

秋風蕭蕭(しょうしょう)として人を愁殺(しゅうさつ)す

という詩が採られていますが、秋風はどこかもの寂しく、人の心を憂いさせる。世の中には「秋鬱」「冬鬱」なんて言葉もあり、日照や気温の変化に起因するといった話もあります。

鬱が良いとはもちろん思いませんが、陰気は自然なものであり、人が自然に生きるのであれば、あって然るべきものです。さらにいえば、陰気があってこそ、より強い陽気が生まれる。秋が来て、冬が訪れれば、春もまた遠くない。

 

私個人の感覚としては、すべて不自然であることに起因する問題だろうとも感じます。

自然の自然は自然なり。自然主義者の自然は不自然なり。

(内村鑑三  『聖書之研究』より抜粋)

という言葉は非常に的を得ており、真に「自然の自然」に立ち返ることが大切だと感じます。何も「愁殺」や「鬱」が悪いのではなく、「自然の自然」でないことが課題なのだろうと思います。

 

天地すら尚久しきこと能わず

「自然」と言えば『老子』も思い起こされますが、『老子』には、

天地尚不能久、

天地すら尚(なお)久しきこと能わず。

(老子  上編  第二十三章)

天地が起こす暴風や激しい雨も1日中続くことはない。天と地でさえずっと続けるなんてことはできないと説いています。作為的な、不自然な状態は天地であれ、人であれ、永く続けることはできない。

 

もちろん、社会で生きていれば、仕事をしていれば「不自然」でなければならないこともあります。例えば、食事を抜いたり、徹夜で仕事をするといった行為は不自然かもしれませんが、それをしなくてはならないときもある。

ただ、それだけではいつか、うまく行かなくなるということを教えているのが「自然」だろうと思います。

 

いかに「自然」に「不自然」を許容するかというのは非常に大切な工夫ですが、一方で、「無為自然」な生き方には憧れがあります。最後に「自然」を非常に美しく表現した詩をご紹介できればと思います。

花  無心にして蝶を招き

蝶  無心にして花を尋ねる

花  開くとき蝶来り

蝶  来るとき花開く

知らずして帝則に従ふ

(良寛)

良寛禅師は号を「大愚」といったそうですが、この詩もさすがに達人と感じさせます。心はこうありたいものです。

 

良寛
良寛

posted with amazlet at 13.11.17
吉野 秀雄
アートデイズ
売り上げランキング: 331,946

瑞月
四国の香川県出身。細々としか続けておりませんが、合気道と剣術を少々しております。漢学教室で学習した内容の発信も行っています。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です