万の事も始め・終りこそをかしけれ

花は盛りに、月は隈なきをのみ、見るものかは。雨に対(むか)ひて月を恋ひ、垂れこめて春の行衛(ゆくへ)知らぬも、なほ、あはれに情(なさけ)深し。咲きぬべきほどの梢、散り萎れたる庭などこそ、見所多けれ。

(徒然草  第百三十七段)

「徒然なるままに」で始まる『徒然草』は、吉田兼好(兼好法師)が著した随想です。『枕草子』、『方丈記』と並べて三大随想とされ、心に余裕を持つべきときに手に取る本として、とても面白いものだと思います。

 

折節の移り変るこそあはれなれ

花は咲き盛っている様ばかりを、月は影もなく光り輝いている様ばかりを見るものであろうか。雨の日に月を恋しく想い、簾(すだれ)を垂れて春のゆくのも知らないというのも、それもまたしみじみと情緒がある。

『古今和歌集』に、

垂れこめて  春の行くへも知らぬ間に  待ちし桜もうつろひにけり

(古今和歌集  巻第二  春歌下  藤原因香)

とあり、「垂れこめて春の行衛知らぬ」はこの歌から採っているそうです。病で風に当たらぬように、簾を垂れこめて春を過ぎる。それもまた、しみじみと情緒がある。

 

『徒然草』では、盛りではなく移ろいを愛する向きがあるように感じます。

万の事も、始め・終りこそをかしけれ。男女の情も、ひとへに逢ひ見るをば言ふものかは。逢はで止みにし憂さを思ひ、あだなる契りをかこち、長き夜を独り明し、遠き雲井を思ひやり、浅茅が宿に昔を偲ぶこそ、色好むとは言はめ。

(徒然草  第百三十七段)

また、

折節の移り変るこそ、ものごとにあはれなれ。

(徒然草  第十九段)

こういった、万事に興を感じる感性は日本的なものであるように感じます。

 

とても人間的で、興味を惹く『徒然草』

中高の教科書で採りあげられてはいたものの、不勉強で背景や内容に関する教養がないのですが、改めて開くと、

万にいみじくとも、色好まざらん男は、いとさうざうしく、玉の巵(さかづき)の当(そこ)なき心地ぞすべき。

(徒然草  第三段)

万事に優れていても、恋もしないような男では物足りない。あるいは、

妻(め)といふものこそ、男の持つまじきものなれ。

(徒然草  第百九十段)

妻というものは、男が持ってはならないものなのだ、といったように、扱っているテーマは人間的でとても多岐に渡ります。そういった点も含めて、とても興味を惹かれる本だと感じます。

 

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