君の御せざる者は勝つ

将能而君不御者勝、

将の能にして君の御せざる者は勝つ。

(孫子 謀攻編 五)

有名な「百戦して殆うからず」と同じく、『孫子』の「謀攻編」に現れる一節です。

 

『孫子』の説く兵法において、戦線にいる将軍に対して、後ろに(あるいは国に)いる君主が命令を下してはいけないという点は重要なポイントです。

なぜなら、戦場は「生き物」であり、それを感じて応変の才を発揮するのが将軍だからです。

 

ただ、将を使う立場から見ると、これは一種の賭けです。特に、君主が優秀な場合にはその優秀さがかえって仇となり、呼吸の悪い戦いを強いてしまうというケースも考えられます。

 

『孫子』の思想は、「勝つべくして勝つ」ですから、内政や外交と合わせ、将もまた「勝つべくして勝つ」ように配置することが理想なのだと思います。

 

ちなみに「君の御せざる」については、『史記』の「孫子呉起列伝」に典型的な逸話が引かれていますので、ご紹介できればと思います。

『孫子』とは、呉の将軍となった「孫武」と、斉の将軍となった「孫臏」の両名を指しますが、こちらは「孫武」の逸話です。

 

呉王に拝謁した孫武は、実際に女たちを使って、孫武の兵法がどう活かされるのかを見たいと言います。そこで、女たちに軍法を教え込み、指揮を取りますが、女たちは言うことを聞きません。

 

孫武は、その原因は女たちの長(呉王の寵姫)にあると見て、寵姫を処罰(斬り殺して見せしめと)すると、すっかり軍(女たち)が整備されたということです。

 

当然、呉王は処罰を止めるように嘆願しますが、孫武は将軍に任命された以上、君命も拝さないことがあると言い、聞きいれません。そして最後に、「王は学問としての兵法は好まれますが、実際に運用はできないのですね」と説いたそうです。

 

統率のために罰を用いることも、戦場では君命も拝さないことも、兵法として説いているとはいうものの、戦うということの凄まじさを教えてくれる逸話です。

 

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