「省」という字の知恵

「少」は本来は眉に飾りを加えた形ではないかと思われる。目の呪力を強めるために眉飾りをつけることが多いからである。その呪力のある目で巡察すること、見まわることを「省」という。

巡察することから、省察・反省のように「かえりみる、みる」の意味に用いる。巡察して取り除くべきものを取り去ることから「はぶく、へらす」の意味となり、省略のようにいう。

(白川静  『常用字解』より抜粋)

漢字は日本の文化を形成する根幹の一つであり、学ぶと多くの発見があります。白川静は字書三部作(『字統』、『字訓』、『字通』)がもっとも有名ですが、『常用字解』は手頃に漢字の意義を学ぶのに便利な書物です。

 

「省」という字に「かえりみる」という意味と同時に「はぶく」という意味があるのは、非常に示唆に富んでいると感じます。人の活動は、とかく煩雑になりがちで、「かえりみれば」必ず「はぶく」必要があるというのは漢字が生まれた古代中国から変わらないということだと思います。

 

英国の歴史学者・政治学者のパーキンソンは、組織の膨張について非常に興味深い指摘をしています。

「役人はライバルではなく、部下が増えることを望み」、また「役人は相互に仕事を作りあう」という性質によって、仕事の量は完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する。

この法則により、イギリスの官僚組織においては組織が担うべき仕事の増減に関係なく、職員の数が毎年5-7%増加していたとパーキンソンは指摘しています。

これは官僚組織についての指摘ではありますが、組織が肥大化し、いわゆる「組織化」が進むと、どのような組織にもあてはまる法則だと感じます。また、個人で見ても、取り扱う対象が広がるとむやみに仕事を煩雑にしてしまい、本当は省くべき仕事が多くなると感じます。

 

これと関連して、安岡正篤の言葉の中にも「省」の字に関する示唆に富む考察があります。

役人というものはとかく無駄が多い、馴れて省みなくなる。ごたごたと仕事を複雑にする。そこで省みて省かなければならないというので役所の名前に「省」の字を付けた。昔の人はよく考えたものです。

余計な仕事を増やしたり、余計な役所をこしらえたりしないように古人は「省」の字をつけたのです。

(安岡正篤  『佐藤一斎「重職心得箇条」を読む』より抜粋)

私は省庁・官庁と仕事をさせていただく機会がないため、それが真実かどうかは分かりませんが、直感的には非常に本質的な指摘だと感じます。

 

省みて省く。やるべきことをやるために、やらないことを決める。組織でも個人でも、決して忘れるべきではない知恵だと感じます。

 

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