昧から暮まで – 日にまつわる漢字

【日】 太陽の形。中に小点を加えて、その実体のあることを示す。卜文の月が三日月中に小点を加えるのと同じ。

(白川静  『字統』より抜粋)

太陽はおそらく、古代から人が自然の中でもっとも自然に目にし、また、尊んだ存在であろうと思います。太陽神としては、日本の天照大神やエジプトのラーなどが有名で、神々の中でももっとも尊い存在とされます。

一方、中国においては陰陽相対(相待)の思想が根付いたことから、また、地域ごとに独自の色合いをもった神話がいくつも混ざり合ったことから、太陽をもっとも尊い存在とは捉えず、あくまで自然の一部として捉え、神格化して崇拝されることがないとされます。

 

上記の理由からかどうかは分かりませんが、「日」という漢字は1日の中で変化し、我々に時間の概念を伝えています。「日」にまつわる漢字を少し見ていければと思います。

 

昧 – 夜明け時のくらさ

【昧】 [説文]に「昧爽なり。旦(まさ)に明けんとするなり」とあり、昧旦ともいう。幽昧のときであるから、昧(くら)い意となる。またおろかの意となり、昧ぼう・昧陋・愚昧のようにいう。

(白川静  『字統』より抜粋)

鶏鳴(鶏が朝を告げて鳴く)より前、まだくらい夜明け時が「昧」です。現代では「夜明け」という意味よりは、「くらい」という意味で使われることが多く、礼儀・智慧などにくらいというニュアンスを持っていますが、夜明け時のくらさを思えば、まだ物事を明らかに知らない・明らかにできない、もやもやとした状態ということでしょうか。

 

旦 – 雲上に顔を出した日

【旦】 金文の字形は、雲上に日が半ば姿をあらわした形。[説文]に「明なり。日の一上に見(あら)わるるに従う。一は地なり」とする。太陽が地より出るのではなく、朝雲の上にあらわれる形である。

(白川静  『字統』より抜粋)

「日」が雲の上、あるいは地の上に顔を出した形が「旦」であり、「よあけ、あさ」という意味となります。年賀状に書かれる「元旦」とは、「一年のはじめ(元)のあさ(旦)」であり、意味としては「1月1日  朝」と書いているのと同じということになります。

 

古代中国では重要儀礼は朝早く行われたらしく、朝廷・朝政といった言葉が産まれています。

 

昼 – 日と雲が広がる空

【昼】 旧字は晝に作る。篆文は日の周辺にそれぞれ小線が加えられていて、暈(うん、かげり)のある形、すなわち昼の晦(くら)い状態をあわらす。

(白川静  『字統』より抜粋)

日が地上に昇り、空に雲が広がっている形が「昼」ということでしょうか。細かな説はいろいろとあるようですが、雲と日と地平線が重なった形というくらいに理解するのが、便宜上は良さそうです。

 

私なんかは「昼」というと、なんとなく午後を思い浮かべますが、古代人の感覚は我々より少し早いようで、旦(あさ)が過ぎて日が高くなり、太陽と雲が広がる空を見上げて「昼」と呼んだのだと思います。

 

暮 – 草間に沈む日

【暮】 旧字は暮に作り、音声は莫(ぼ)。莫は草間に日の沈む形で、暮の初文。草原に日が没しようとする形であるから、その下にまた日を加えるのは繁文であるが、莫が多く否定詞に用いられるようになって、さらに日を加えた暮の字が作られた。

(白川静  『字統』より抜粋)

「昼」が終わると日は傾き、やがて草間に沈んでいきます。海に沈むのではなく、草間に沈むというのは、漢字が産まれた中国の地理を考えると自然です。なぜなら、中国の西には海はなく、草原が広がるからです。

 

ちなみに「夕」という字は「莫(くれ)なり。月の半ば見ゆるに従う」とされ、月が少し顔をのぞかせた形で、「夕暮れ」は月が顔を出し、日は草間に沈んでいく時ということでしょう。

日が沈むころを「日」から見ると「暮」、「月」から見ると「夕」です。「月」になりきっていないのが「夕」というのは、なかなか面白いと感じます。

 

なお、「明」の字にある「日」は太陽ではなく、窓の形であり、窓から月光が入りこむ意とされます。「そこは神を迎えて祀るところであるから、神のことを神明という」と『字統』にはあり、「日と月を重ねて、非常に明るい様子をあらわす」というわけではないようです。

 

その「明」の下に「血」を配置したのが「盟」(ちかう)であり、神明(神)の前で生贄の血をすすって盟(ちか)いを立てる儀式の様子から作られている字です。

漢字は表意文字であるがゆえに、このような無限の発展を持っており、それを追っていくのは面白いのですが、長くなりますので本日はこのあたりで。

 

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