蠱 – 山上風下、山風蠱(上卦 十八)

山風蠱

喜んで人に随っていると、安逸に溺れ、腐敗に至る。蠱はその字の通り、皿の上に虫が乗っている形であり、ある意味で随っているが、一方で腐敗したものに蟲がわいていると見ることもできます。

 

蠱は往きて事あるなり

蠱は元々は人を惑わす呪儀ですが、百虫を一器に入れて共食いをさせるという蠱法の妖しさも加わり、禍の雰囲気があります。白居易は西周を亡ぼした美女、褒姒と殷(商)を亡ぼした美女、妲己を評して、

何ぞ況(いわん)や  褒・妲の色  善く蠱惑し  能く人の家を喪はせ、人の國を覆すをや

(白居易  古塚の狐)

という詩を遺しており、蠱惑・蠱溺という言葉はいき過ぎた美しさが招く盲愛・惑乱を予感させます。

 

ただ、蠱による腐敗は、同時に次の活動・発展への可能性を宿している。そもそも、なぜ腐敗につながるかというと、動かず剛なる山が上にあり、下の者たちが風、つまり、ただ従(随)う柔であるためです。政治も愛も、従いすぎては危ない。

 

豫(よろ)こび、豫(たの)しんで、随(した)がっていても、やはり、そういう上下が交わらない状態では天下は乱れる。しかし、天下壊乱のときこそ、邁進して事を為せる。そこで、

蠱、剛上而柔下、巽而止蠱、蠱元亨、而天下治也、利渉大川、往有事也、先甲三日、後甲三日、終則有始、天行也、

蠱は、剛上にして柔下なり。巽にして止まるは蠱なり。蠱は元(おお)いに亨(とお)りて、天下治まる。大川を渉るに利あり。往きて事あるなり。甲に先だつこと三日、甲に後るること三日、終れば始めあり。天行なり。

前の物事が終わるときは、次の物事が始まるとき。壊乱が終わるときは、太平の始まるときである。これが天行であり、だからこそ、腐敗のときである蠱は、元いに亨ります。

 

君子、民を賑わし徳を養う

蠱のときは、上の強い力により、下が乱れ、壊れる。もの皆、壊れるときはそのままにもしておけない。そこで、

山下有風蠱、君子以振民育徳、

山の下に風あるは蠱なり。君子以て、民を振(にぎわ)し徳を養う。

山に風が吹きつけると、草木果実が飛ばされて散乱する。しかし、その材を取って、なんとか事を起こさなければいけない。そこで、君子は民を救って、勇気づけ、自己の徳を養う。

 

蠱は腐敗を表すと同時に、腐敗を建て直す事業を表します。皿の上の蟲は、新たな活動への躍動にもなる。むしろ、躍動としなくてはならない。組織の盛衰を考える上でも、非常に示唆に富む卦です。

 

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