豫 – 雷上地下、雷地豫(上卦 十六)

豫

豫の卦は地山謙を反転した形。同人集まり大有となり、の徳を養うことで豫、つまり和楽(やわらぎ、よろこび、たのしむ)ことができます。

 

余裕があれば、物事を楽しめる

「豫」は「あらかじめ」という意味であり、『中庸』には、

凡そ事豫(あらかじ)めすれば則ち立ち、豫(あらかじ)めせざれば則ち廃す。言、前に定まれば則ち跲(つまず)かず、事、前に定まれば則ち困(くる)しまず。行い、前に定まれば則ち疚(やま)しからず、道、前に定まれば則ち窮(きわ)まらず。

(中庸  第二十章)

とあります。「豫」には「よろこぶ」、「たのしむ」という用法もありますが、白川静の『字統』では「予測」が本義ではないかと考察されています。

 

物事は豫(あらかじ)め準備をすればうまくいくが、準備が不十分であれば失敗するものである。いろいろな原理原則はあるが、要は「豫」という1つに帰着する。

準備がきちんとできていれば余裕ができ、余裕ができれば物事を豫(たの)しむこともできます。余裕があれば人々も和(やわ)らぎ、豫(よろ)こび、豫(たの)しむ。

 

人々付き従い、行師(いくさ)に利あり

余裕・和楽をもたらす指導者であって初めて、人々は豫(よろ)こんで付き従う。そこで、

豫、利建侯行師、

豫は侯(きみ)を建て、師(いくさ)を行(や)るに利あり。

同人集まり、大有を得てあくまでである。そうして初めて、志を遂げて豫(たの)しむことができる。

君子は志士であると同時に仁人であり、決死行を強いるばかりでは指導者たりえない。人には家族・生活があることを思いやって初めて、人々は豫(よろ)こんで心から従い、理想に向けて兵を起こすことができます。

 

豫は上卦にエネルギーを象徴する「雷」、下卦に順(すなおさ)を表す「地」が配置されます。心から順(すなお)に従い、外にエネルギーを発する、動く。豫は大きく活動を始めるのに、非常に佳い卦です。

 

雷、地を出でて奮う – 音楽の起源

豫の形はまた、陰気(地)に圧迫されていた陽気(雷)が地上に出て爆発する形。雷が鳴ってしまえば、陰陽の気は和楽し、豫(よろこび、たのしみ)となる。

 

そこで、

雷出地奮豫、先王以作樂崇徳、殷薦之上帝、以配祖考、

雷、地に出でて奮うは豫なり。先王以て樂を作り、徳を崇(たっと)び、殷(さかん)にこれを上帝に薦め、以て祖考を配す。

雷が響きわたれば、もはや陰陽の気はこの上なく和楽している。古代の聖王はこの卦に従って「音楽」を創造し、人々を豫(たの)しませ、また、徳ある人を顕彰したとされます。

さらに、音楽の奏でを天帝に薦め、父祖を天帝と合わせ祀る(配祀する、配す)。古来、音楽は人だけでなく神をも豫(たの)しませ、地上に招き寄せる力を持つものです。

 

天地否の否(ふさ)がりを打破するエネルギー、循環の窮まりが雷地豫として爆発する。その爆発は同時に余裕(豫)の表れであり、豫(たの)しみ、豫(よろ)こびに通ずる。円明な『易経』の面白みを感じる卦です。

 

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