履 – 天上澤下、天澤履(上経 十)

履

履の卦は小畜を反転させた形です。「履」は履(ふ)む、履(おこな)うと読みますが、同時に中国においては「礼」と同じ音であり、礼は人の履行すべきものとして、「履」と「礼」が通ずるという解釈も見られます。

古代中国においては、音が共通であれば別の字を当ててもよいという寛容さがあり、それが解釈の幅を広げることがあります。

 

人畜まれば礼が必要 – 生長の原理

小畜と履はそれぞれ、反転させることで対となっていますが、これ自体が物事の生長の原理を表していると感じます。

つまり、物事には表裏がある。何か物事が起こったとき、最初に目に映るのは「陽」の部分であり、徐々にその「陽」を生み出す根源である「陰」が現れます。

 

例えば、小畜と履であれば、人が畜(あつ)まり、畜(とど)まれば、そこに社会生活が生じる。現代でいえば、高校・大学を卒えて、社会人となる。

小畜のときに文徳(目に見える知識・技術)を修めますが、社会には秩序はあるので、今度は礼が必要となる。具体的には、先人の作った秩序、先輩や友人の教えを履(ふ)み、履(おこな)わなければならない。

 

人が畜(あつ)まり、社会生活を行うことの表裏が『易経』の中に表現されています。

 

虎の尾を履み亨る – 和の徳を教える卦

履の卦は、

履虎尾、不咥人、亨、

虎の尾を履む、人を咥(くら)わず。亨る。

とされます。履の卦は上卦が天、下卦が澤であり、最も剛強な乾の卦に、和らげ悦ばす澤の卦を配した形です。つまり、虎の尾を履む形ではあるが、和らげ悦ばす徳によって虎に噛まれずにすむ。

正しく先人の積んだものを履み、履うことによって、亨(通)るというのが、履の卦が教えるところです。

 

当然、社会に出れば思うに任せぬことがあり、憤りを覚えることもあります。しかし、それに対して柔らいだ態度で対処すれば、傷つかず、想いを通(亨)す機会を得る。

まずは、先輩・友人の知恵を素直に受け入れることが大切であることを教える卦です。

 

また、小畜の卦でもご紹介したように、『易経』は周の文王が殷の紂王に囚われていた際の作ともいわれ、その不遇の時の危機感を表しているとも言われます。

 

徳なくして欲し、矩を越えるは滅びの元

徳なくして位を欲するは滅びの元であり、不相応の富は乱れの元となる。そこで、

上天下澤履、君子以辯上下、定民志、

上に天あり下に澤あるは履なり。君子以て上下を辯(わか)ち、民の志を定む。

とし、上下の分際をはっきりと分け、民の心を安定させる。天下に澤あるは道理です。

古代中国では、士・農・工・商・賈(行商人が「商」、店を持つ商人が「賈」)は身分に応じた位・富に限定されていたものの、その規を越えようとする者はおり、それは天下の乱れを生じさせます。

 

才能ある者が驥足を展ばすのは良い。ただ、そこには履(ふ)むという経験があって、初めて輝くのだと思います。まして、驥足を持たぬ者をや。

それが古代から引き継がれる理であるという点において、理とは偉大な知恵であると感じます。

 

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