「比」という字は右向きの人が2人並んだ形であり、現在では主に「くらべる」の意で用いられますが、元々は「したしむ」「ならぶ」「したがう」の意を持ちます。
戦は転じて、閉じた仲間意識を生む
『論語』には「君子は周して比せず」(君子は誰とでも誠実に付き合うものであり、一部の人とだけ親しむものではない)とあり、「比」はどちらかというと閉じた交遊を示す、ややネガティブな意味に用いられています。
需を反転させると訟の卦になったように、師を反転させると比の卦となります。師は「群れる」の意で、それによって「戦(いざこざ)」が起きることでしたが、それを反転させると仲の良い者たちは「比(した)しむ」という意を表すようになる。
また、群れると人は互いを比べ合い、好きな者同士は親しんで助け合い、嫌いな者は排斥します。比の卦は、その人情の機微も表現しています。
自分の感情、欲望、好みを主眼として物事を見るのが「比」であり、そのために悪くなりやすくもあります。
正しき親しさであって初めて吉
比の卦は、
比吉、原筮元永貞、无咎、
比は吉。原筮するに元永貞にして、咎なし。
とされます。比(した)しみ助け合うのは吉です。ただ、上記のように「比」には自らの好みが含まれるため、比の卦が出た際は再度、筮(占い)を行い、自らに善い永続的な貞(ただ)しさがあることを確かめ、そうであって始めて咎なしとなります。
自らの欲望のみで偏って親しみ合っていれば、咎を受けることになります。「原筮」は再度、筮を行うこと。「元」は乾の卦の四徳である「元亨貞利」に通じ、万物の根源となる元(おお)いなるエネルギーのことです。
さらに、
不寧方来、後夫凶、
寧(やす)らかざるものまさに来たる。後夫は凶。
と続き、比(した)しむことができず不安だった人々が集まってきます。そこで善き仲間を作ることができます。
ただし、猜疑心が強かったり、打算的に過ぎてぐずぐずし、遅れてくる人もいます。そういう人はなかなかなじめず、凶となります。
そこで比の卦は、親しむべき人(友、師、君など)を見つけたら、速やかに参じて親しむべきであることを教えます。
地に水を撒くように、自然に親しむ
比の卦の総括は、以下のようにまとめられています。
地上水有比、先王以建萬国、親諸侯、
地上に水有るは比なり。先王以て萬国を立て、諸侯を親しむ。
比の卦は上卦が水、下卦が地です。地上に水を撒けば、隙間なく密着します。また、地上に水があるのは自然な形であり、地と水は親しんでいるため、比(した)しむの卦となります。
この卦にのっとり、古代の聖王は万国を建てて、諸侯を親しみ、それによって天下を隙間なく親しませたとされます。
自然で正しい比(した)しみを持ちたいものだと思います。