師 – 地上水下、地水師(上経 七)

師

諸葛亮孔明の「出師の表」からも分かるように、師は「兵」や「戦」という意味を持ちます。争訟には戦がつきものである。そこでの次に師の卦が置かれます。

 

人集まれば、訟いは戦に発展する

古代中国の兵は普段は農民であり、農閑期に訓練を行って戦争に備えます。そこで、地のごとく動かぬものの下に険しさ(水)が潜む「地上水下」の形を師と名付けます。

 

古代中国では軍が出征する際、肉を供えて先勝祈願の祭りをし、その肉を携えて出発したとされます。軍が分かれて行動する場合、その肉を将軍が刀で切り分けて、各軍に持たせます。

「師」の偏(へん)がその肉を、旁(つくり)が刀を示しており、兵・戦という意味と同時に、将軍・先生といった意味にもなります。また、軍は人が集まったものであることから、「もろ」(諸々の意)にもなります。

 

物事が生長するに従って、群居するようになる。そこでいざこざが起きる。それにどう対処すべきかを教えるのが師の卦です。

師貞、丈人、吉无咎、

師は貞。丈人(じょうじん)なれば、吉、咎なし。

師(戦)は貞(正)しくなければなりません。衆望に沿って、悪を伐たなければ、滅びを招くのが戦です。

 

「丈人」は大人・長老のことであり、そのような大人が指揮を執って戦い、戈(武器)を収めれば吉であり、咎はない。ただし、いたずらに好戦的な小人が指揮を執っては咎がある。

争訟を解決する衝突は大義名分の下に行い、老成した大人がことに当たるべきであると、師の卦は教えます。そこには、そもそも戦は生命と財を損なうものであり、貞(正)でなければならないという思想が根底にあります。

 

『孫子』は「兵とは国の大事なり」と言い、「全うするを上と為す」と説きますが、それに通じる思想が『易経』の師の卦にもあります。

 

地中の水を蓄え、有事に備える

師の卦はまた、次のように教えます。

地中有水師、君子以容民畜衆、

地中に水あるは師なり。君子以て民を容れ、衆を畜(たくわ)う。

冒頭でご紹介したように、兵は農であり、農は国の基本(地)となります。地中に水があるのが師であり、水は平時は外に出ることはありません。

しかし、戦時には力を用いることも必要です。そこで君子は民を安んじ、いざという時に発揮できる力を蓄えます。

 

師の卦が教える知恵はもちろんですが、「師」という一字にこれだけの知恵を詰め込んだ東洋文化にも感嘆します。

 

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