人情は水の如し

人情は水の如し。之をして平波穏流の如くならしむるを得たりと為す。若し然らずして之を激し之を塞がば、忽ち狂瀾怒濤を起さん。懼れざる可けんや。

(佐藤一斎  言志後録  一六九)

「感情があふれる」といった表現がありますが、まさに感情・人情は水のようだと感じます。水というものは穏やかな清流がもっとも美しく、澱むと濁り、腐ってしまいます。人の心も清く流れていることが、健全に生きる上ではとても大切だと感じます。

 

また、普段は何でもない流れが堰き止められ、出口を失うことで激しい流れとなり、人を襲う存在となる点でも、「水」と「人情」は非常に似た性質を持っています。

佐藤一斎の『言志後録』はもちろん、指導者のための哲学を述べているという側面が強いですが、身近な人間関係や自らの感情に対する教訓としても、非常に感じるところがあります。

 

宮城谷昌光の小説『子産』の中で、子産の政治に対する怨嗟の声を強引に押しとどめようとする家臣に対して、子産が次のように述べるシーンがあります。

私は忠善を以て、怨みを損するという言葉を聞いたことがある。威をなして恨みを防ぐなどということは聞いたことがない。

威をもちいて人々の議論を急止させることはできるが、それはまるで川を堰き止めるようなもので、大きく決潰すれば、はなはだしく人々に害を及ぼす。そうなってからでは、私は人々を救うことができない。堤を小さく決潰させ水を導くほうがよい。

そう言って、「人々の議論と批判を聞き、これを薬とするのが良い」とし、身分の低い者の意見にも耳を傾けたと言われています。

 

一方で子産は非常に厳格な政治を行う人で、「火」のような激しさを持っていました。こちらについては、

水は一見穏やかなため人々は親しむが、一度牙をむけばその威力は大きい。人々をはなはだしく害してしまう。

一方、火は一見して恐ろしく人々は近づかないため、何かあった際の被害が小さくて済む。自分は徳が十分でないため、火を以てしか人々を導くことはできない。

という主旨の言葉が記されています。こちらも、非常に示唆に富んだ言葉です。

 

人間関係については、以前にご紹介した「君子の交わりは淡くして水の如し」もとても大切な教訓を私に教えてくれます。清く穏やかな流れを以て、生きていきたいものだと思います。

 

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