万の事はしらざる故に不審あり

万の事はしらざる故に不審あり。うたがはしき故に、その事が胸をのかざる也。道理があきらかにすめば、胸に何もなくなる也。是を知をつくし、物をつくすと云う也。

(柳生宗矩  『兵法家伝書』  より抜粋)

『兵法家伝書』は進履橋(しんりきょう)・殺人刀(せつにんとう)・活人刀(かつにんとう)の3部から成り、宮本武蔵の『五輪書』と並ぶ代表的な武道書です。

引用した一節は「殺人刀」の中で「ならひ」の方法を記したもので、『大学』の致知格物を引いて、その方法が説かれています。
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廟堂に立ちて大政を理するは

廟堂に立ちて大政を理するは、天道を行ふものなり。故に公平無私、正道を踏み、賢人を採り、能く其職に任ふる人を用いて政柄を執らしむるは、則ち天意なり。

故に真に賢人と認むれば、直ちに我が職を譲るの誠心なかる可からず。如何に国家に勲労あるも、其職に任へざる人を、官職を以て賞するは甚だ誤れり。官は其人を選びて之を授け、功有れば之を賞し、之を愛すべし。

(西郷隆盛  『大西郷遺訓』)

『大西郷遺訓』の冒頭に現れる、無私の人である西郷隆盛の思想が凝縮されていると感じる一節です。
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人情は水の如し

人情は水の如し。之をして平波穏流の如くならしむるを得たりと為す。若し然らずして之を激し之を塞がば、忽ち狂瀾怒濤を起さん。懼れざる可けんや。

(佐藤一斎  言志後録  一六九)

「感情があふれる」といった表現がありますが、まさに感情・人情は水のようだと感じます。水というものは穏やかな清流がもっとも美しく、澱むと濁り、腐ってしまいます。人の心も清く流れていることが、健全に生きる上ではとても大切だと感じます。
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己を愛せざるものなり

己を愛するは宜しからざる事の第一なり。修行の出来ざるも、事の成らざるも、過を改むる事の出来ざるも、功に伐り驕慢の生ずるも、皆自ら愛する為めなれば、決して己を愛せざるものなり。

(西郷隆盛 『大西郷遺訓』)

非常に耳の痛い言葉です。
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平日、道を踏むべし

平日道を踏まざる人は、事に臨みて狼狽し、処分の出来ざるものなり。

(西郷隆盛 『大西郷遺訓』)

松下村塾の驥足、久坂玄端は「無事、有事の如く、有事、無事の如し」の人であったということですが、大西郷もまさに泰然の人という感があります。
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道に志す者は偉業を尊ばず

道に志す者は、偉業を尊ばぬもの也。

人の意表に出て、一時の快適を好むは未熟の事なり。戒む可し。

(西郷隆盛 『大西郷遺訓』)

「志」と言うと、どうも立身出世や野心と捉えられることがありますが、それは全く違うということを教えてくれる貴重な教えです。
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賢者の楽しむところは道

賢者の楽しむところは道のみ、好むところは善のみ。

勢位利禄、ひとつも心に入るところなし。

(講孟箚記 安政三年五月十七日)

私は、今はそれほど「勢位利禄」に興味がないと思っているのですが、やはりそれには人間を捉えて放さない魔力があるのだろうと思います。
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生命も要らず、名も要らず

生命も要らず、名も要らず、官位も金も要らぬ人は御し難きものなり。

然れども此御し難き人に非ざれば、艱難を共にして国家の大業を計る可からず。

(西郷隆盛 『大西郷遺訓』)

幕末維新の豪傑、西郷隆盛の言葉の中でももっとも有名なものの1つではないでしょうか。幕末三舟の一人、山岡鉄舟を評した言葉とも言われています。
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何事もほどほどに

おもしろの春雨や  花を散らさぬほど

おもしろの武道や  文学を忘れぬほど

おもしろの酒宴や  本心を失わぬほど

おもしろの好色や  身を滅ぼさぬほど

(小早川隆景)

以前にもご紹介した毛利元就の三男、小早川隆景の遺訓と言われている言葉です。ただ、私自身、武道の先生からうかがった言葉で、恥ずかしながら正しい出典などは不明です。
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畢竟一誠

人唯だ一誠あり、父に事ふれば孝、君に事ふれば忠、友に交はれば信。

此の類千百、名を異にすれども、畢竟一誠なり。

(講孟箚記 安政三年五月二十九日)

「誠」は武士道をはじめ、日本人の性質として深く浸透した姿勢で、明治神宮の武道場「至誠館」にも「誠」の文字が入っています。
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断じて行えば、鬼神も避く

断じて之を行えば、鬼神も之をを避く。

大事を断ぜんと欲せば、先ず成敗を忘れよ。

(吉田松蔭 正月晦夜、感を書す)

志とは心が指し示す想いというように理解していますが、この志を固めることが先ず最初にすべきことと考えています。
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死して後已む

凡そ学問の道、死して後已む。

若し未だ死せずして半途にして先づ廃すれば、前功皆棄つるものなり。

(講孟箚記 安政三年五月二十三日)

「死而後已」は、元々は論語に出てくる曾子の言葉ですが、同じく吉田松蔭の『士規七則』にも現れるといったように、吉田松陰が好んで引用する言葉の1つです。
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いかに心は猛きとも

もののふの  いかに心は猛きとも  思わざりせば  不覚あるべし

(塚原卜伝 武道百首)

武芸に限らず、教えを歌として伝えていく風習は昭和頃までは日本に残っていたのだと思いますが、私は歌を詠むこともままならず、恥ずかしいばかりです。

ここでご紹介したのは、剣豪として高名な塚原卜伝の「道歌」です。
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不動心 〜 つよく大なる心

岩尾の身と云は、うごく事なくして、つよく大なる心なり。

身におのづから万理を得て、つきせぬ処なれば、生有る者は、皆よくる心ある也。

(宮本武蔵 兵法三十五箇条 三十四)

宮本武蔵と言えば、特に剣術や武道に興味がなくとも知らぬ人はいないというくらい、有名な兵法家です。『兵法三十五箇条』は、その武蔵が晩年、細川公に献じたもので、武蔵直筆の書も残されているそうです。
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